トップ «前の日記(2005-09-11) 最新 次の日記(2005-09-17)» 編集

Rogue Engineer's Diary / やさぐれ日記

Categories | CPUの創りかた | Modern Compiler Implementation in ML | NerdTV | PDP-11シミュレータで古代のUNIXを動かしてみる | The Yakumo Project | やさぐれ読書録
最近のツッコミ:1.CheapestOnlineUSpharmacy(2008-05-17 14:27)  2.Kir(2008-05-08 15:52)  3.Hero(2008-05-06 16:49)
最近のトラックバック:1.濃縮還元オレンジニュース:プロ.. (2006-12-22 22:02)

2004|02|03|04|05|06|07|08|09|10|11|12|
2005|01|02|03|04|05|06|07|08|09|10|11|12|
2006|01|02|03|04|05|06|07|09|

2005-09-14

[NerdTV] Andy Hertzfeld: クヌースに「ソースコード見せてよ」と頼まれたら…

前回に引き続きNerdTVの第一 話、Andy Hertzfeldのインタビューのもう一つの山場を紹介しておこう。インタビュー開始後、1時間1分あたりから。

Andy: 今年の1月にComputer History Museumというところで、 オリジナルのMacintoshのマーケティングチームが講演をやったんだけど、その場では僕も含め最初のMacintoshにかかわったスタッフの多くも客席に座って話 を聞いていた。で、最後の方で質疑応答をやったときに、年配の観客が立ち上がって、「MacPaintと いうのはプログラムの歴史上、最も素晴らしい作品だったんじゃないかと私は思うのですが、ソースコードを見せていただくということは可能なのでしょうか」 という質問をしてきたんだ。その質問をした年配の観客というのは、実はドナルド・クヌースだった。

Bob: えーっ!

Andy: ドン・クヌースと言えば僕が最も尊敬する人物の一人でもあるし、とにかくすごい人だよね。質疑応答ではこの質問には答えられなかったんだけど、クヌースは 講演が終わった後に僕のところに来て…

Bob: ビ ル・アトキンソンはそこにいたの?

Andy: ビル・アトキンソンはその場にはいなかった。MacPaintの作者は彼だったんだよね。ともかく、ドン・クヌースが僕のところまでわざわざやって来て、 改めて頼んできたわけだ。「おい、あのドン・クヌースが僕に頼みごとをするなんて、普通ありえないぞ。できる限りのことをして、彼の望みをかなえてあげな くちゃ」ということで、家に着いたらすぐにビル・アトキンソンに電話をして、「キミのところに、MacPaintのソースコードが残ってたりしないか?」 と聞いたんだ。「ないよ」という答えが返ってきた。彼いわく、持っていたProFileのハード ドライブが10年前に壊れたときになくなったんだそうだ。「頼むよ、ビル、フロッピーディスクの中とかに残ってたりとかしないの?」 彼はフロッピーをあさってソースをさがすのはイヤだと言ったんだけど、そこをなんとか、と拝み倒した(I twisted his arm hard enough)。それから2日後、彼から電話があって、木箱に入ったフロッピーの中に、MacPaintのソースがあるのを見つけたけど、フロッピーを読 めるマシンがないと言って来たんだ。

僕は古いMacをなんとか動くように仕立てて、そのフロッピーを読もうとしたんだけど、実はそのフロッピーは、古代の、製品になら な かったファイルフォーマットというか、Lisaの 開発作業をするためだけに使われた、Lisa Monitorのファイルフォーマットで書かれていたんだ。ということで、これをなんとかするユーティリティを書く羽目になったんだけど、それで中身を見 たところ、ファイルは普通のテキスト形式で格納されていなかった。当時はディスク容量は貴重だったから、ランレングス法を使っ て、行頭の空白を圧縮するようにしていたんだ。ということでやっとファイルを取り出せたと思ったら、インデントはダメダメだわ、変なコントロール文字があちこ ちにあるわ、という姿だったので、かなりガックリときた。結局、昔の格納形式を思い出して、これをなんとかするユーティリティをperlで書いて通した 後に、やっときれいなMacPaintのソースコードが手に入ったわけだ。で、それをCDに焼いて、ドン・クヌースに送った。そしたらクヌースから返事が あって、ビル・アトキンソンと僕を彼の家に招待してくれるという。すごかったよ。

Bob: パイプオルガンが家にあるんだよね。

Andy: そうそう、パイプオルガンとか、すごい彫刻とか、学術関係で彼がもらったたくさんの賞がおさめられた箱とかがあって、とにかくすごかった。二つのオフィス で、立ったまま仕事をする様子まで見せてくれたよ。昼食を一緒に食べに出たけど、そこでも楽しく過ごすことが出来た。彼は受け取ったソースコードが本当に 気に入ったみたいで、感謝してくれたよ。

僕はそのときすでにfolklore プロジェクトを始めていたんだけど、クヌースのところから帰ったときに「MacPaintのソースコードをオンラインで公開するとい うのはMacintoshの歴史の記録としては最強なんじゃないか」と思い始めた。で、その件について友人たちに聞いてみたんだけど、みんな否定的な答え を返してきた。「アップルに訴えられるんじゃないかな」とか、「20年前のソースコードだから大丈夫っていうワケには行かないよね、だって歯止めがないでしょ う、誰かが3年前のソースコードを公開すると言い出したらどうするの? 無理だよ」とか言われたんだ。でも、「ドン・クヌースが役に立ったと言う品なら、歴史的にも学術的にもたくさんの人の役に立つはずだ。やっぱ りここは公開するのが筋だろう」と思って、とにかく公開した後アップルが文句を言ってきたら止めるということにしよう、でもその頃にはソースコードは世に 出回っていることになるだろうし、などと考えたんだ。でもそうと決めた後もまだ少々ビビっていたので、さらに識者に聞いて回っていたんだけども、最終的に、 ティム・オライリーがすばらしい解決策を出してくれた。彼に「どうしたらいい?」と聞くと、コンピュータの歴史上の資料としてComputer History Museumに寄贈すればいいじゃないか、と言うんだ。多分彼らだったら、アップルから許可を取り付けてくれるんじゃないか、ということで、その通りに やってみることにした。手続きには2〜3ヶ月かかったけど、今年の8月にアップルはMacPaintを Computer History Museumに寄贈してくれたんだ。まだ公式発表はしてないけど…これが実現したのもドン・クヌース、ビル・アトキンソン、そして その他の人たちのおかげだ。Computer History Museumの人たちは僕らのビデオも撮ってくれたよ。これはComputer History Museumでの、本格的なソフトウェアのコレクション第一号になるということで、彼らもかなり気合を入れていて、ビデオ映像を用意したり、開発にまつわ る話とかも僕らからいろいろと聞いていた。ということで、もうしばらくするとMacPaintのソースコードは彼らのWebサイトで、世界に向けて公開さ れるはずだ。

NerdTV #1: Andy Hertzfeld by Robert X. Cringely and PBS福盛秀雄訳)

かつて、萩谷先生青 木淳さんが言っていた、ソフトウェア博物館の実現への第一歩が(海の向こうではあるけれども)今まさに踏み出されようとしている。公開される日を楽しみに待つこととしたい。

9/16追記: 上記文章のうち、「多分今年の10月には公開される…アップルは」とあった箇所は、「今年の8月にアップルは」の誤りでした(本文 の該当箇所および関連箇所は修正済)― 謹んで訂正させていただきます。


本エントリの内容はクリエイティブ・コモンズ・ライセンスの下に公開されています

本日のツッコミ(全4件) [ツッコミを入れる]
# 三浦 (2005-09-16 14:21)

驚いた。
Slashdottedおめでとう。

# 福盛 (2005-09-16 23:49)

どうもありがとう。レンタルサーバの負荷/帯域制限にかかるかと少し心配でしたが、
なんとかなりそうです。

せっかくなのでこの場を借りて、日記/blog/メモなどで
言及してくれた多くの方々、NerdTVの存在を知るきっかけとなった
Traiss(http://traiss.tabesugi.net/ )とその作者の新山さん、
NerdTVのRobert X. Cringely, (そしてもちろん) Andy Hertzfeld
にまとめて感謝したいと思います。ありがとうございました。

# hir (2005-09-21 03:17)

すみません、2005-09-21 03:05のトラックバックの送信主です。
wiki編集中に変なTBが飛んでしまいました。
恐れ入りますが削除して頂ければ幸いです。

# 福盛 (2005-09-21 09:31)

該当トラックバックを削除しました。
以上、(非常に簡単ですが)ご連絡まで。

Name / お名前:
E-mail:
Comment / コメント
(To English posters: please do not remove the extra characters in the comment area):
本日のTrackBacks(全6件) [TrackBack URL: http://fukumori.org/diary/tb.rb/20050914]

「NerdTVから:クヌースに「ソースコード見せてよ」と頼まれたら…」 なんて、...

portsのエラい人の日記経由、やさぐれのえらい人の日記より。 Rogue En...

NerdTVから:クヌースに「ソースコード見せてよ」と頼まれたら…(やさぐれ日記)より,Donald Knuthにソースコードを見せてよ,って言われた人の話. これは,たしかに断われないです.もっとも,自分のコードだったら,恥ずかしすぎて,とても見せられそうにないですが. ..

リンク: Rogue Engineer's Diary / やさぐれ日記(200

事のいきさつは、福盛さんの訳を見てもらったほうがおもしろいと思うので省略しますが、かのドナルド・クヌースが「ソースコードを見せてくれ」と言ったのが発端だそうで、ビル・アトキンソンやアンディ・ハーツフェルドが昔のソースを引っ張り出してきたそうです。

# casino:casino (2006-10-13 18:56)

たまに来ますのでよろしくお願いします。

本日のリンク元


福盛秀雄/Hideo Fukumori

Visitors Count: 237(yesterday) / 262(today) / 259104(total)